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当鍼灸院での過敏性腸症候群の治療例

【患者】 : 10代 男性
【主訴】 : 下痢が止まらない。腹痛
【主訴の経過】 : 来院の一年半前ごろ(4月)に発症。腹痛により、トイレにこもる時間も長くなりその月の中旬頃には学校も休みがちになる。
      夏休み前に幾らか改善するも一時的なものですぐに元に戻ってしまった。
      大腸内視鏡検査など病院での検査では異常無し。精神的なものだろうと精神科への受診を勧められる。       来院時は、毎朝、毎晩それぞれ一時間以上トイレにこもっている状況。学校は数ヶ月間ほぼ休み。
【既往歴】 : 小学生 : 転倒により外傷性くも膜下出血
    来院の四年前 : 交通事故。車に乗車中、後部より追突される。数回の通院治療で回復。
    来院の一年前3月 : スポーツをしている際に左膝を損傷。外側側副靱帯損傷。

【治療】
《 初診 》 やや緊張気味ではあるが、はきはきと受け答えも出来る素直な感じの方。また、話をする際にはキチンと目を見て話すことも可能。新学年になったところからだったので環境の変化、学校でのいじめなども考えたが、特に問題となっていると感じるようなこともなかった。また、家庭環境も良好。
 腹痛、下痢の悪化するとき、あるいは良くなる時があるか確認しても特に変化はなく、常にあるとのこと。学校の休みの時には良くなるとか登校時に発症する、電車などの密閉空間での悪化など一切無し。
 これらのことから『精神的なもの』という診断に疑問を感じ、発症前に何か怪我をしなかったか何度も確認を行なう。最初は何もなかったと言っていたが何度か確認するうちに上記にあるような膝の怪我を思い出す。膝の怪我は回復し、痛みもないと言っていたが、確認すると熱感、圧痛が顕著に診られた。また、外傷時の様子が覚えていなかったが、左臀部にも熱感、圧痛が顕著に診られたため外傷時に転倒した可能性も考えた。左膝の状況から、精神的なものではなく外傷を原因としたものと判断し、治療を行なう。

 治療は基本的には他の症状の方と同じようにお腹全体に優しく鍼を接触させた後、手首のツボを使い脈の調整を行なう。
 その後、腹部の触診により、心虚として背中の治療を行なう。(積聚治療では、腹診などの結果から背中の治療の仕方や手順を変えています。心虚と言っても、『心臓が悪い』という意味ではありませんのでご注意ください)
 陰虚状態とみて、初診であることも考慮に入れ第一方式にて左膝の反応に注意しつつ背中に鍼を行なう。
 背中の治療の後、補助的に左膝の外傷部位と思われるところに治療を追加。

《 2診目から5診目 》: この間は2週間に3回程度の頻度で治療を行なう。治療は概ね1診目と同様。
1診目以降、大幅に症状は改善し、学校にも徐々に行けるようになり、4診目以降は毎日登校できるようになる。
朝、昼間の腹痛、便意は、かなり改善するも夜間の腹痛は毎日有り、毎晩1時間ほどトイレにこもる状況が続いていた。そのため、初診の問診時にははっきりとしたことが確認できなかったが、左膝の外傷時に臀部にも何らかの衝撃が入っていたと判断し、5診目より臀部の治療も加える。

《 6診目から12診目(初診から約3ヶ月後) 》:臀部の治療も加えた5診目以降、夜間の腹痛も顕著に改善し、腹痛、下痢は1週間に1,2度ぐらいとなる。症状の変化からこちらの診断があっていることを確信し、背部のお灸なども加えつつ、これまでと同様の治療を繰り返す。この間は症状の改善具合を確認しつつ、治療間隔を1週間ごと、2週間後、1ヶ月後と徐々に開けて行き治療を行ない、12診目にて治療を終了した。

【考察】
 西洋医学(現代医学)では、過敏性腸症候群は、精神的なものが主要な原因と考えられています。そのため、本症例でも病院での各種検査で異常が診られなかったため、精神的なものと判断されました。しかし、当鍼灸院初診時の様子、また悪化したり、改善したりする要因も診られないため、精神的なものが原因とする病院での診断に疑問を感じました。
 東洋医学では外傷が原因となり、様々な症状を呈する事もあると言われています。この外傷は、今回のように症状の出る少し前の事もあれば、何年も前のこともあります。また、今回のように症状と全く関係のないように思う箇所が原因のことも多く見られます。西洋医学的な考え方が浸透している現在では、膝の怪我は膝だけの問題で有り、X線や超音波など様々な検査で問題がなければ痛みが残っていても『治ったので治療終了』となります。しかし、東洋医学ではそれが時間の経過と共に全く別の部位の症状となって現れてきてしまうのです。こうした怪我はほとんどの方が覚えていないものですが、何度も確認した上で治療を進めていくことの重要性を改めて感じさせられた症例です。


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