手指の痛み、しびれ

 手指に痛みやしびれを生じさせる疾患は非常に多数あります。それらの多くには鍼灸治療がよく効きます。
 このページでは、そのうちの代表的な疾患を説明していきます。

ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)

 ドケルバン病と聞くと難しそうな名前なので大変な病気かと思われるかもしれませんが、いわゆる腱鞘炎です。
 筋肉は、端(骨につく部分)の方は、非常に硬い繊維組織である腱というものになっています。この腱は、刀のように腱鞘という鞘(さや)に納まっています。通常なら腱は腱鞘の中をスムーズに動くことが出来ます。しかし、使いすぎることにより炎症を起こしてしまうと動かす際に擦れ合ってしまうようになり、痛みを生じるようになります。これが、腱鞘炎です。
 ドケルバン病は、一番使いすぎる傾向のある箇所、親指を動かす筋肉の短母指伸筋腱と長母指外転筋で起こるものです。
 この筋肉は、肘の方にまで伸びているので、母指だけでなく時には手首や肘の痛みも生じます。妊娠出産期の女性や更年期の女性に多く生じます。家事など手の使いすぎる傾向のある方、スポーツや指を頻繁に使う仕事の人にも多いのが特徴です。
 腱鞘炎を主訴として鍼灸院に来られる方はそんなに多くはありませんが、他の病気・症状に随伴するものとして腱鞘炎を訴える方は多くいます。腱鞘炎は鍼灸治療が非常に効果的な疾患の一つです。病院などで治療してもなかなか改善しない方や薬などに頼りたくない方は一度鍼灸治療をお試しください。

弾発指(ばね指)

 これも上記と同じ腱鞘炎の一種です。
 上記にて説明した通り、腱は腱鞘に納まっています。しかしこの鞘は、刀の鞘のように全体を覆うものではなく必要な箇所にだけあるトンネルのようなものです。鞘に納まっている部分と納まっていない部分とがあるのです。
 腱は使いすぎることにより、肥厚してしまうことがあります。ある程度ならトンネルを通過できますが、トンネルよりも太くなってしまうとトンネルの出入り口にひっかかるようになります。ばね指はこの引っ掛かりにより指を曲げたり伸ばしたりすることがスムーズにできなくなる状態です。痛みや腫れ、熱感が伴います。トンネルの入口に腱が引っかかり、指がなかなか伸びなくなりますが、力を入れると無理やりトンネルの中を通過するので、急に引っかかりが解放されはじかれたように指が伸びます。そのため、弾発指(ばね指)と言われています。
 バネ指は、上記のドケルバン病と同じように鍼灸治療が効果的な疾患の一つです。鍼灸治療を行うことにより、腱の肥厚が緩和され、スムーズに動かせるようになっていきます。長引く弾発指の治療にはぜひ、鍼灸治療を試してみてください。

末梢神経麻痺

 腕には、親指側を支配している橈骨神経、小指側を支配している尺骨神経、真ん中の手の平側を支配している正中神経の三つの神経があります。これらの神経が何らかの原因で圧迫されたり、損傷したりすることにより上肢の末梢神経麻痺が生じます。
 代表的な原因は、開放創や挫傷、骨折、圧迫などがあります。他にはガングリオンなどの腫瘤、腫瘍、神経炎、運動のしすぎによる絞扼性の神経障害などでも生じます。
 他の神経麻痺と同様、鍼灸治療はこれらの末梢神経麻痺にも効果的です。

橈骨神経麻痺

 橈骨神経麻痺になると、下垂手になります。手首を上に上げられなくなり垂れ下がった状態です。また、橈骨神経は、筋肉だけでなく感覚も司っていますので、前腕の親指側にしびれなどの知覚障害も生じます。
 橈骨神経麻痺は、二の腕の部分で橈骨神経が圧迫されて起こることも多くあります。飲酒をして座りながらうたた寝をしていたら、肘当てで圧迫され、朝になったら幽霊のように手が吊り下がってしまうというのは代表的な例です。また腕枕をして寝ることによっても圧迫されてしまいます。そのためハネムーン症候群などという甘い俗称もあります。

尺骨神経麻痺

 外傷や腫瘍以外で尺骨神経が障害される主なものは、肘部管症候群とギヨン管症候群(尺骨神経管症候群)があります。尺骨神経が傷害されると指先の細かい動きが上手くできなくなります。難しい言葉ですが、これを巧緻(こうち)運動障害といいます。
 尺骨神経麻痺の典型例では、母指球以外の手内筋の筋萎縮と鷲手が生じます。鷲手(わしで)は名前の通りわしの鉤爪のように手が変形していきます。指の付け根の関節が過剰に伸び、逆に指の第1・2関節は屈曲した形になります。何かを引っ掻く時の指の形状をもっと極端にした感じです。
 尺骨神経は、前腕の小指側の感覚を伝える働きがあります。そのため、尺骨神経麻痺になるとその部分にしびれなどの感覚障害を生じます。筋肉の運動は、手首を上に曲げる動作や指を曲げること等に関与していますので、これらの動作にも障害が生じます。

正中神経麻痺

 正中神経麻痺の代表的なものは、手根管症候群です。
 正中神経は手の非常に重要な神経で、正中神経の傷害は非常に大きな問題となります。普段何気なく使っている手ですが、手の鋭敏な感覚と細かい作業を行う巧緻性は常に無意識のうちに活用しています。正中神経麻痺では、これらに大きな障害を生じてしまいます。
 正中神経は、母指から環指の半分までの手のひら側の感覚を支配しています。また、前腕をひねる動作や手首を曲げる動作、手指の屈曲、さらに母指の付け根の筋肉(母指球筋)などを支配しています。圧迫などの障害が生じる箇所にもよりますが、正中神経麻痺では、これらの部分の感覚障害や運動障害が生じます。手根管症候群では朝方に眼がさめたときにしびれや痛みが強くなります。

胸郭出口症候群

 つり革につかまる時や、物干しの時のように腕を挙げる動作で上肢のしびれや肩や腕、肩甲骨周囲の痛みが生じます。また、うずくような、時には刺すような痛みとしびれ感ビリビリ感などの感覚障害も生じます。それに加え、手の握力低下や細かい動作を行いにくくなるなどの運動麻痺の症状出てくるときもあります。
 鎖骨下動脈が圧迫されると、上肢の血行が悪くなって腕は白っぽくなり、全体的に痛みが生じます。鎖骨下静脈が圧迫されると、手・腕は静脈血のもどりが悪くなり青紫色になります。
 なで肩の女性に多く見られます。
 症状を悪化させる動作を避けるようにすることが大切です。棚の上の方の物を取るなど上肢を上げた位置での仕事や重量物を持ち上げるような運動や労働は避けてください。
 胸郭出口症候群の治療では、患者さん自身が姿勢を気をつけることが大切です。医師や治療家に全部丸投げにするのでなく自分自身で治すという心構えを持ってください。いつの間にか猫背になっていたり、パソコン作業の際に首を突き出したような格好になっていないでしょうか?安静時も肩を少しすくめたような肢位をとるようにして症状の緩和をはかるようにしてください。

当鍼灸院での治療

 鍼灸治療には数多くの流派が有り、鍼灸師ごとに治療の仕方が全く異なると言われています。当鍼灸院では、数多くある鍼灸治療法の中でも積聚治療という方法で主に治療を行っております。
 積聚治療では、病の原因を 『精気の虚』 にあると考えています。聞きなれない言葉ですが、簡単に言うと 『冷え』 です。『生命力の低下』とも言えるかもしれません。手指が痛くなる人は、手指を使いすぎているから起こるという事ももちろんですが、それ以前に何らかの原因で 『冷え』 が生じ、それが原因となって、たまたまその方の弱い箇所つまり手指に症状が出ていると考えます。
 ですから、手指が痛いとか麻痺しているからといって、腕周りだけを治療するのではなく、全身的な治療を行います。そのようにすることにより、症状の本当の原因となっている 『冷え』 を取り除き、手指の症状を緩和させていきます。驚かれる患者さんも多くおられますが、背中や足に鍼をしていると肘や指の症状が取れて、スムーズに動くようになる事がしばしばです。
 手指の痛みや麻痺(冷え)の原因は、頚椎等の外傷が原因のこともあります。昔の交通事故やスポーツ等のけが等がこれに該当します。そのため、初診時にはこれまでの経過を詳しくお聞きして、原因となっているものが何か見極めて治療を進めていきます。
 腱鞘炎やばね指、麻痺などの時は病院での治療だけでなく、お早めに鍼灸治療もお試しください。

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